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1. 社会保障の充実・公正な税制をめざします


(1) 憲法第25条に定める生存権が何人にも保障されることを求めます。
(2) 社会保障の基盤をなす雇用・賃金の改善と少子対策の強化を求めます。また、社会保障を充実する財源確保のため企業が社会的責任を果たすよう求めます。
(3) 生活できる所得を保障する、将来にわたって安定した年金制度を求めます。
(4) 医療・介護の連携した提供体制を作るため、地域包括ケアネットワークの整備を求めます。
(5) 必要な時、十分な医療を受けられる公的国民皆保険制度を維持発展させます。
(6) 人間の尊厳を守り、介護の社会化を実現する介護保険制度を実現発展させます。
(7) 所得の再分配機能を果たす公正な税制を求めます。負担能力を無視した高齢者への課税強化に反対します。
(8) マイナンバーによる国民統制とナンバー悪用による犯罪を防止するために、運用を監視し必要な是正を要求します。
(9) 市民が社会保障に関する正しい認識を持つことができるよう、学校教育における社会保障教育の充実を求めます。

  以上の課題を実現するための17年度の統一要求は、厚生労働大臣に対しては退職者連合要求(別添1)に統一し、総務大臣に対する地公退統一要求(別添2)を付加して全体要求とします。

 <2017年度退職者連合統一要求(退職者連合)> 別添1
 <2017年度地公退統一要求> 別添2


<社会保障制度の情勢と課題>

(1) 社会保障と安倍政権
① 社会保障の三前提
  社会保障は、「平和」と「人権尊重」と「健全な国民経済」を基盤としている。安倍政権は、「違憲の戦争法制定によるアメリカの下働きで戦争をする国への転換」、「自民党改憲草案が示す基本的人権の否定」、「TPP加入に象徴される新自由主義的グローバリズム・強欲資本主義で国民経済を破壊する政策」を進めることで、社会保障の基盤を掘り崩そうとしている。また、市場原理主義に基づく労働基準法・労働契約法・労働者派遣法等、労働者権利擁護法制改悪を図り、低賃金・不安定雇用、社会的格差を拡大し社会保障制度=社会的扶養の支え手を失わせようとしている。これらの政策を許し続ければその先には社会保障の崩壊が待つ。
② 消費税率変更延期と社会保障切り下げ工程表
  消費税は、社会保障・税一体改革方針に基づき14年4月に5%から8%に増税され、15年10月にはさらに2%増が法定されていた。安倍政権は14年11月の解散総選挙での人気取りのため「再延長はないことを断言」したうえで2%増税を17年4月まで延期した。しかし参議院選挙を控えた16年6月、自らの発言を覆して「新しい判断」という珍語で再び2019年10月まで延期した。
  他方、法人税について国自治体あわせた実効税率を当初の計画を前倒しして15年度の32.11(国税23.9)%から16~17年度29.97(国税23.4)%、18年度29.74(国税23.2)%に引き下げることを決定した。
  この消費税率変更延期と法人税減税による税収不足のため、政権は三党合意で消費税率10%時に実施するとしていた施策を延期した。①「低年金者給付金」は10%実現時まで延期、②「総合合算制度」は公明党の要求で実施することになった軽減税率の財源捻出に充てるとして不実施、③逆に年金制度としては問題の多い「基礎年金受給資格を25年から10年に短縮」は選挙の人気取りでつまみ食い的に法改定し2018年8月実施とした。
  なおかつ不足する財源の埋め合わせとして財政制度等審議会・経済財政諮問会議を利用した「工程表」を閣議決定して、2020年度までの改革工程を視野に2016~2018年度を集中改革期間として、新たな改善を否定、高齢人口増に伴う自然増があっても1年に5,000億円を天井にする枠組みとした。2016年度は薬価改定▲1,500億+協会健保補助減▲200億で抑制分を捻出し、2017年度では自然増6,400億-天井5,000億=1,400億を捻出し、2018年度は診療報酬・介護報酬をターゲットに1,300億抑制の方針とし、なりふり構わぬ負担増・給付抑制が図られている。
  社会保障審議会各部会では審議開始時点で工程表が示されてその追認が求められる異例の運営になり、ごく一部の項目を除いてそれが貫徹された。これらに基づいて第193国会に提出された法案・予算案は与党により強行可決された。
  また、財政制度等審議会は4月、会長がそれまでの吉川洋立正大学教授から経団連の榊原定征会長に交代した。従来に増して人件費としての社会保障経費負担を嫌う財界の意思を露骨に反映することが想定される。

③ 地域共生社会
  厚労省は塩崎大臣の音頭で「我が事・丸ごと」のフレーズをかかげた「地域共生社会」作りを標榜し、高齢者・障害者・子どもについて縦割りを超えて柔軟に支援するとキャンペーンしている。政権が掲げる「地域共生社会」は二つの側面を持っている。
 一つは、安倍政権が多用する「場当たりの人気取り、やってる感演出」であり、実現することなく短期的に消滅するキャンペーンの一つである。地域を強調しつつ中央統制、縦割り解消を強調しつつ省内の局・部・課間でさえ高い壁を崩せないなどの事実はこれを示している。
 もう一つは、菅・安倍ラインが底流で指向する、国家が指図して洩れなく市民を統制する戦前型隣組社会への序章、公的責任の放棄・安上がり行政の受け皿としての地域づくりで、進行すれば大きな危険性を持つ。この文脈で語られる「地域」は私たちが地域包括ケアのためにめざす地域とは全く異なる。私たちは政権の思惑を退け、「我が事・丸ごと」を、市民が連帯して暮らし全体を支え合う公共サービスを作り出すという本来の意味で実現すべく取り組む。
④ こどもと教育
  我が国の子供の貧困率は2015年で13.9% 7人に1人といわれる。社会保障領域で大きく立ち遅れている子どもと教育について、財源を確保して制度・施策を整備することは喫緊の課題となっている。このため民主党政権初期に普遍給付をめざして設計された「こども手当」の思想を正しく発展させ、その財源に責任を持つ政策とする必要がある。自治退はこのテーマについて、①給付目的は幼稚園・保育園、義務教育、高等学校、大学、社会人教育等のどこから着手するか、普遍給付か所得制限給付か、②財源調達を社会保険によるか税によるか国債によるか、税なら税目は何かなど、今後の議論を深める。給付の視点からは初等中等教育を重視した普遍給付、財源の視点からは、税を基本としつつ当面実現可能性の高い社会保険も視野に入れることなどを指標に(国債は論外)検討する。また、高等教育無償化についてはいくつもの前提が必要と思われるので慎重に対処し、当面「所得連動返済型奨学金」を視野に入れて検討する。
  政府は「人材投資会議」なる組織を設置して、社会保険料に子育て施策の財源を確保する「こども保険」の新設を検討課題とする方向を示した。直接の発端は自民党若手議員らが提起した就学前児童の教育費負担軽減策の構想で、これを継承した党の経済再生構想小委員会の提言を「骨太方針17」に取り込み今後の具体化を計画しているといわれている。
  重要な社会保障分野であるこどもと教育について、安倍政権常套の場当たり・やってる感演出メニューとして消費させることなく、堅実な政策討論が行われるよう取り組む。

(2) 拡大する格差と貧困
① 新自由主義と格差社会
  世界規模で深刻化しつつある格差と貧困、強権支配は社会不安をもたらし、抑圧される側に人権否定・法治否定、テロ、独裁に向かう社会心理を生み出している。
  社会的格差は日本においても拡大しており、失業、不安定・低賃金雇用、無年金・低年金等により生活困窮者層が増大している。これは、短期的利益と出資者への配当のみを追求する多国籍ファンドとそれに支配される多国籍企業、それを容認する省庁・官邸の一体となった行動による、日本での「市場原理主義と新自由主義」がもたらした結果である。
② アベノミクス
  非科学的な雰囲気操作の金融政策のみに依拠するアベノミクスは、実体経済の改善と市民生活向上になんら効果をもたらさず、国内外の金融商品業界の過熱だけをもたらしている。
  しかも、日銀が実施する金融緩和は、明らかに政権主導であり、緩和からの正常化にむけては大きなリスクを抱えている。
(3) 2018年に集中する諸改革
  2018年には①「第7次医療計画(従来5年周期、次回から6年・在宅医療等は3年周期)=17年3月までに策定された“地域医療構想(2025年の提供体制)”と整合させる:都道府県策定」、②「第3期医療費適正化計画(1~2期は5年周期、第3期から6年周期):国・都道府県策定」、③「診療報酬改定(2年周期):中医協審議」、④「第7期介護保険事業計画:市区町村策定、第7期介護保険事業(支援)計画:都道府県(3年周期)」、⑤「介護報酬改定(3年周期):市区町村決定」の同時策定・改定を迎えることに加えて、⑥「国保財政運営の都道府県化」も実施される。
  2017年中にはこれらについて一斉に内容検討・実務化が進められるので、医療・介護制度の連携と財政の整合性、医療・介護サービス提供体制の連携と体系的整備を確保するチャンスである。反面、3月から始動している「経済財政一体改革推進委員会社会保障ワーキンググループ(榊原定征主査)」などが同時改定を給付抑制・負担増に利用する動向もある。2017年はこれらの策定・改定作業に対する監視と意見反映が重要な年になっている。
(4) 年金制度
① 公的年金
  公的年金保険は6,700万人の被保険者と3,900万人の受給者の権利に直結する超長期の制度であることから、全社会が協力して維持すべきものである。年金は社会化された扶養であって金融商品ではない。また、防貧を目的とする社会保険であって救貧を目的とする扶助=生活保護とは目的も方法も異なる。年金財政の安定は「保険料を負担する労働者数とその賃金水準(集める)」と「年金受給者数と給付水準(配る)」に規定されるため、経済政策・雇用政策こそが基本であり、年金制度自体で解決できることは限られている。
② 年金法改定
  年金制度については2014年の財制検証で試算された三課題「短時間労働者の社会保険加入拡大」「マクロ経済スライドの名目下限方式の見直し」「保険料拠出期間延長、年金受給年齢選択促進」が検討されてきたが、事業主の反発、受給者の反発、財政当局の抵抗などにより、制度改定提案に至ったのは一部のみとなっている。
  第190国会には「短時間労働者について、労使合意があれば500人以下企業でも年金加入を可とする(地公については労使合意抜きで500人要件除外)」「マクロ経済スライドを繰り越し累積方式に改める(18年4月施行)」のみが提出されたが継続審議となり、16年12月、192国会で可決された。
  自治退は、短時間加入拡大については極めて限定的な法案を批判し、前倒しで抜本的に拡大すべきこと、保険料拠出期間延長・受給年齢選択については推進を主張してきた。また、マクロ経済スライドについて「繰り越し累積方式(キャリーオーバー)」は名目下限方式の範囲内として認識し、あわせて将来受給世代の所得代替率確保を念頭に置いた制度のあり方について議論を深める必要があるという立場で退職者連合に意見反映した。
  このほか、可決された年金関連法には「GPIFに労使代表各1を含む経営委員会を設置する(17年10月施行)」、「国民年金第一号被保険者産前産後休暇中の保険料免除(19年4月施行)」「賃金変動が物価変動を下回る場合に賃金変動に合わせて年金額を改訂する考え方を徹底(21年4月施行)」などが含まれていた。自治退は「経営委員会については労使代表者数に不満はあるが、一歩前進」「産前産後の保険料免除は是」「賃金・物価下落時に下落幅の大きいほうに合わせた年金額引き下げはやむなし」として対処した。
③マクロ経済スライド
  自治退は年金受給者団体としてより良い給付を確保するために取り組んできた。このため、現役労組と協力して根本課題である「良質な雇用の安定・拡大と労働分配率の改善」をめざす。
  他方、現行の保険料率上限固定方式の年金制度のもとでは現受給者が相対的に高い給付を受ければ、孫・ひ孫などの将来受給世代から現受給者に年金資産の移転が起こり、一旦生じた移転は回復しない。
  退職者連合の「社会保障の基盤である良質な雇用の安定・拡大とともに労働分配率の向上を図ること」「マクロ経済スライド制度による年金額調整の在り方について、現受給者の年金を守るとともに将来の年金受給世代が貧困に陥らない年金額水準を確保できることを重視して退職者連合と誠実に協議すること」という要求を基本に、関係者の率直な協議と合意のために努力する。
④ 2017年度年金額
  2017年度の年金額は、消費者物価変動率▲0.1%、名目手取り賃金変動率▲1.1%だったため、年金額は前年比▲0.1%となった。ちなみに適用されなかった16年度のマクロ経済スライド調整率は0.5%だった。また上記の192国会で可決された「賃金・物価下落時に下落幅の大きいほうに合わせた年金額引き下げ」は、数値としては今年度それに該当するが施行が2021年4月なので、今回は適用されていない。
⑤ 追加費用
  被用者年金一元化に関連して2013年8月に強行された「追加費用削減」は制度論として誤っていることを指摘し続ける。とりわけ、沖縄について全国水準より長い追加費用期間による削減とされており、沖縄の年金受給者に対する不当な不利益扱いとなっている。復帰法の理念に反する政令は是正されるべきである。
⑥ 積立金運用
  安倍政権は株価操作・国際金融資本への貢献としてGPIFの年金積立資金=労働者の資産を保険料拠出者の意見反映抜きで株式市場に投入拡大する決定をし、各共済組合も一元化法によりこれに追随した。この結果、金融市場の思惑に振り回されて運用損益は乱高下している。速やかに法定化されたGPIF経営委員会の機能を高めなければならない。
(5) 地域包括ケアシステム
① 2013年12月に成立した「社会保障改革プログラム法」とそれに続く「医療介護総合確保推進法」で法的に定義を与えられた地域包括ケアシステムは、医療・介護両制度の連携のもと、患者・利用者本位で病院・施設・在宅ケアを体系化する地域ごとに多様性をもつネットワークである。その確立は時間との競争になっており、地域在宅生活を支える診療所・病院の整備、訪問診療・訪問看護・訪問介護・訪問リハビリテーションの整備と連携、これらを担う人材養成と確保、データの整備とその的確な活用、医療機関・介護事業者を誘導する仕組みなどの基盤整備を早急に進めなければならない。
② 地域包括ケアシステムは患者・利用者本位の供給システムづくりという市民サービスの目的のほかに、限りのある財源と社会的資源の制約のもとで高齢化により急増する需要に対応する方策というもう一つの側面を持っている。個別の方策では負担増、給付抑制など利用者の権利と対立するものが含まれており、「要支援者、要介護1・2に対する介護保険給付カット」のように、あり方からも効果からも誤った施策を排除しながら推進する必要がある。
③ 2018年に集中する診療報酬・介護報酬改定、諸計画策定は地域包括ケアシステムの内実を左右するため、その検討実務期間である2017年に自治退は退職者連合とともに、政府、自治体への働きかけを進める。
(6) 医療制度
① 後期高齢者医療制度
  2008年4月に発足した後期高齢者医療制度は、私たちの廃止要求にもかかわらず、自民党政権下の「社会保障制度改革国民会議」では、「制度発足後時間が経過し制度は安定的に受け入れられている」として存続方向とされた。自治退は引き続き粘り強く要求を続ける。
② 公的皆保険制度
  小泉政権以来公的医療制度を縮小し、空白を市場に委ねて「支払い能力のあるものだけが医療を受ければよい」とする主張が影響力を持続している。この一環として様々な場で年中行事のように混合診療の拡大が主張されている。
  医療をアメリカ型の保険資本支配に委ねて市場化すれば、国民皆保険制度は破壊される。「必要あるものが医療を受ける」公的皆保険制度を堅持するために力を結集する。
③ 医療提供体制
  偏っていた機能別病床を合理的に再編成するとともに、切れ目のない地域医療重視への転換を図るため、「地域医療構想」を基礎に消費増税分を財源として新設した基金と診療報酬による誘導が開始された。これらを市民本位で速やかに実現するためには、計画策定に必要な人材とデータ整備、医師・看護師等の確保とともに、在宅生活を支える介護・福祉との連携が必須の課題となっている。他方、社会保障を敵視し、医療費削減を自己目的化して提供体制の統廃合をはかる動きがあり、これに対しては反対する。
④ 医療保険制度の見直し
  法人税減税・消費税率変更先送りによる税財源不足を患者利用者への給付抑制・負担増で埋め合わせるという経済財政再生計画・改革工程表諸課題について、自治退は16年から17年にかけて主な項目について見解を明らかにして退職者連合とともに国会対策を含めて取り組んだが、一部を除いて強行された。
  自治退は社会保険における応能負担を支持するが保険である以上、能力に応じた負担は保険料等の拠出段階に限定すべきであり、給付は無差別であるべきことを主張する。保険料に加えて窓口負担でも差をつけることは、負担金による収入増より、患者負担の垣根によって受診療をためらわせる受給抑制が主目的と思われ、必要に応じて公平な給付を受ける原則に反する。
 ≪強行された改悪≫
  一連の「見直し」は強行されたが、若い時に比べて医療費が急増して負担が困難になる高齢者の実態を無視した「見直し」、医療と介護の違いを無視して負担と給付を悪いほうの水準にあわせる「見直し」に対しては、今後も反対し続ける。また、これらの多くは法案ではなく予算案の一部として処理され事後政省令で確定する手法が取られ、一旦政令に委任された事項は行政のさじ加減で容易に変更できることを示した。
ア 70歳以上の患者に係る高額療養費の負担上限額引き上げ(17年8月以降二段階実施):加齢に伴い受診機会が急増する実態を無視している、実施すれば受診機会の喪失を招く
イ 高額介護合算療養費の負担上限額引き上げ(18年8月実施):同上
ウ 後期高齢者の保険料軽減特例の廃止(17年度以降三段階実施):後期高齢者医療制度そのものが問題、これを廃止し、代わる制度を作るべき
エ 入院時の光熱水費負担新設(介護横引き・17年10月以降二段階実施):入院総体が治療の一環であることを否定
継続事項
  このほか、工程表が求めた「ア かかりつけ医以外への外来時の定額負担」「イ 金融資産を考慮した自己負担(介護横引き)」は継続検討とされ、近い将来の課題とされている。さらに「ウ 後期高齢者医療窓口負担の原則2割化(2019年度以降に75歳になる者は74歳までの2割を維持、既に75歳を超えている者は段階的に2割へ)」も再浮上すると思われるので、反対する。
(7) 介護保険制度
① 介護保険制度の原点
  介護保険制度は、介護の社会化・在宅生活の重視を目標に、介護を必要とし始める世代を第一号被保険者、親の世代が介護を必要とし始める(まれに本人も介護を必要とする)世代を第二号被保険者として、介護者・被介護者の双方を支援する制度として2000年に発足した。3ヶ年を単位にサービスの需要と供給の計画、公定価格としての介護報酬、それを賄う保険料を決めてきた。
  数次にわたる制度改定で、認知症の位置づけや地域生活重視、医療との連携など充実が図られた一方、間もなく3人に1人が高齢者になる高齢化の費用に耐えかねて、原点からそれた制度変更も行われてきた。苦し紛れの「改革」は、3ヶ年の契約期間中に一方的に負担や給付を変更して保険契約を履行しない、集まった保険料を保険給付ではない市町村事業に支出する、ことにまで至っている。私たちは意味のある制度を持続させるために制度の効率化と、市民が可能な範囲で負担を引き受ける必要性は理解している。しかし、介護保険が被介護者・介護者の権利を守るための制度であるという原点と、市民との保険契約の制度であることを裏切ることは許さない。
  また、人的サービスによって成立する介護は従事する介護労働者の職の確立とそれにふさわしい処遇が絶対条件である。公定価格の介護報酬で賄う賃金が他産業に比して大幅に劣る現状は政策の失敗であり、速やかに財源を用意して人材を養成・確保すべきである。
② 介護保険制度の見直し
  医療保険と抱き合わせで経済・財政再生計画・改革工程表が押し付けた、利用者への給付抑制・負担増に対し、自治退は主な項目について退職者連合とともに国会対策を含めて取り組んだが、一部を除いて強行された。一連の「見直し」は強行されたが、負担増により高齢者をサービス利用断念に追い込む「見直し」、医療と介護の違いを無視して負担と給付を悪いほうの水準にあわせる「見直し」に対しては、今後も反対し続ける。
≪強行された改悪≫
  第193国会には「3割自己負担の導入」「介護納付金の総報酬割化」「財政的インセンティブ付与の規定整備」「地域共生社会関連四法」などが法案として提出され、他は医療と同様多くの項目が予算案の一部として処理され、事後政省令で確定する手法が取られた。今回法案だった3割負担は次回からは適用範囲を国会抜きで変更できる政令委任とされており、行政のさじ加減で今後容易に拡大できる。
 ア 所得の高い層は3割負担を新設(医療横引き・18年8月施行):短期間で治癒することが期待される医療と一旦利用が始まれば長期化する介護の違いを無視。しかも15年度に2割負担を導入したばかりでその影響評価もまだない。
 イ 高額介護サービス費の負担上限額引き上げ(医療横引き・17年8月実施):限られた所得しかない高齢者に負担強要
  ウ 高額介護合算療養費の負担上限額引き上げ(医療横引き・18年8月実施):同上
 エ 要介護1・2に対する人員基準と報酬の引き下げ(18年改訂):要介護1・2の保険給付を敵視して報酬と人員基準切り下げで事業者の撤退を誘導する手法は卑劣。
 オ 40~64歳の会社員の保険料に2020年までに総報酬割を導入:応能負担として基本的に是。
 カ 交付金による保険者へのインセンティブ:財源も交付金額も示していないが、「自立支援・重度化防止」名目の要介護認定やケアプランによる利用抑制を指標とした賞金や罰金は制度を歪める。
 キ 介護納付金の総報酬割化(17年8月分から):応能負担の立場から支持。
 ※ 要支援1・2に対するサービスを保険給付から削って市町村の総合事業に移行する方針は、保険料を支払ってもサービス利用ができなくなることにより制度への信頼を失わせるとして反対してきたが、多くの問題をはらんだまま、2016年度末までに全ての自治体で強行された。
継続事項
  工程表は要介護1・2を介護保険給付から削り、総合事業化することを求め、その助走として要支援・要介護度の低い利用者の自己負担割合を重度に比べて割高にすることを提起した(利用者をいじめて利用を圧迫)。審議会はこれを批判し、かわりにこの部分の介護報酬の切り下げ・人員基準の改悪を提言したため18年の報酬改定に向けてその検討が行われる(事業者をいじめて供給を圧迫)。いずれにせよ生活援助サービスを介護保険から切り離し市町村総合事業に移行することが目標とされており、近い将来再浮上すると思われる。
  また、規制改革会議が主張した混合介護の弾力化により介護保険サービスの訪問介護の生活援助サービスの全てを専門的力量を要しない介護保険外サービスに移行させることが目論まれている。これらに対して反対する。
(8) 「マイナンバー」
  2013年に法制化された「マイナンバー」は15年に実施段階に入り「個人番号カード」は実務上の混乱もあったが徐々に普及している。番号は使う目的が適切で、取り扱いが厳格であれば有用になりうるが、安倍政権のもとではきわめて危険なものになる。
  自民党改憲案では「国民は公の秩序に従う義務」を強要するとしており、このためには治安維持法の再現である共謀罪法などにより戦前の政治警察(特高・憲兵隊)を桁違いに成長させて復活させることでしか裏打ちできない。番号は個人やNPOなどの団体を国家管理する道具として用いられる。番号を通じて得た情報は本人・当該団体に知られることなく警察や関係行政機関に提供される。
  また、安倍政権は国家の都合で利用を拡大することには熱意を持つが、個人情報を尊重すること、番号を使っている国で起きている成りすましや侵入・改竄・特殊詐欺などの犯罪に対して防御する仕組みや姿勢は欠けている。市民による今後の監視が不可欠である。
  また、骨太方針は医療・介護保険の自己負担の基礎に所得のみではなく「マイナンバー」を利用して捕捉した金融資産を加えようとしている。基本的に負担の基礎として所得に資産を加えるべきではないし、金融資産のみの捕捉は捕捉されない不動産、美術品、宝飾品、現金など多様な形態の資産との公平性を欠くという問題がある。「マイナンバー」を用いて国民の資産を可視化し負担を求める国の手段は極めて遺憾であり容認できない。
(9) 社会保障教育
  多くの「学者」や評論家が、自己の売名や社会保険料負担を嫌う企業経営者の意を代弁するために社会保障をめぐる謬説(オルタナティブ・ファクト)を振りまき、市民の正しい認識を阻害し、社会保障の健全な持続性を阻害している。自治退は、市民が社会保障の本質と、制度の意義・問題点を正確に把握するための方策の一つとして、学校教育における社会保障教育の充実整備を求める。